OpenAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)が、イーロン・マスク氏がOpenAIの経営を完全支配することを求めていたと法廷で証言した。2026年5月12日に行われた裁判で明かされたこの証言は、テック業界の最大級の権力争いに新たな局面をもたらしている。

アルトマン氏の証言によると、マスク氏はOpenAI設立当初から単独での経営支配を志向していたと報じられている。同氏は法廷で、マスク氏が段階的に経営権の拡大を求めるコミュニケーションを取っていたと述べたとみられる。この証言は、OpenAIが非営利組織から営利企業への転換を進める過程で、複数の経営陣が対立していたことを示唆している。

マスク氏とアルトマン氏の関係は、OpenAI設立時の共同創業者関係から急速に冷え込んだ。マスク氏は2018年にOpenAIの取締役会から離脱し、その後も同社の経営方針や資金調達戦略に対して公開的に批判を続けてきた。今回の裁判は、この長年の溝の深さを数字と証言で明確にする重要な機会となっている。

アルトマン氏は証言の中で、マスク氏が単に技術的な方向性だけでなく、企業としての意思決定権全体の掌握を目指していたと説明したとされている。この主張は、単なる経営哲学の相違ではなく、より根本的な支配権争いであることを示している。裁判の過程で、マスク氏側の反論や追加的な証拠提出が予定されており、事実関係の全容解明が進むと考えられている。

このOpenAIをめぐる権力闘争の展開は、業界全体に波及する可能性が高い。マスク氏はxAI、Tesla、SpaceXといった複数の事業を率いており、OpenAIへのリソース投下や戦略的な関与の度合いが、これらの企業のAI開発方針にも影響を与える可能性がある。特にxAIは、OpenAIの競合としてGeneral Purpose AI(汎用AI)の開発を目指しており、マスク氏がOpenAIで果たせなかった支配力を同社で行使する動機として機能している可能性がある。

業界観測筋からは、大型言語モデル分野における支配権争いが激化する懸念も出ている。OpenAIはMicrosoft傘下で年間数百億ドル規模の投資を受けており、マスク氏がこれを通じて影響力を拡大することは、AI開発の地政学的な力関係に大きな変動をもたらす可能性がある。日本市場においても、OpenAIとxAIのいずれが主導的な地位を占めるかは、国内のAI事業展開戦略に直結する要素となってくるだろう。

マスク氏の思考方式で捉えると、この一連の出来事は単なる企業統治の問題ではなく、「人類の未来に必要なAI開発」という第一原理に基づいた行動と考えられる。同氏は過去のインタビューで、AIの安全性が人類存続に関わる最重要課題であると繰り返し強調してきた。この文脈で解釈すれば、OpenAIの経営支配を求めたのは、個人的な支配欲ではなく、自分が正しいと考えるAI安全保障戦略を実装するための必要条件だったと考えることもできる。マスク氏の長期的なビジョンである「人類の多惑星化」を実現するには、AGI(汎用人工知能)の安全な開発が不可欠であり、その過程で経営権が必要だと判断した可能性が高いと見られている。

本裁判の判決内容と、その後のOpenAIとxAIの事業展開がどう変わるかが、今後数ヶ月間の大きな注視点となる。AI産業全体の構図が再編成される可能性も想定される。